『摂食・嚥下』について
舌は咀嚼や食塊の形成、移送といった摂食の準備期、および口腔期において、食べ物を口腔内で移動させる、噛む際に食べ物を保持する、嚥下の前に舌の上に食塊を集めるなど、中心的な役割を果たしている。
高齢者の介護現場にある柔らかく、咀嚼する必要がないように調整された食品があるが、こうした食べ物を咽頭へ送り込み嚥下させるためには、舌を咽頭から食道へ送り込むための力を保ち、十分に機能している必要がある。
●関連する項目
舌機能と低栄養の関係
この項目では、舌機能と、高齢者のPEM(たんぱく質・エネルギー低栄養状態 以降、低栄養状態)の関係について述べる。
「施設入所高齢者にみられる低栄養と舌圧の関係」(老年歯学第19巻第3号2004)によると、施設入居の高齢者を対象に、最大舌圧を計測したところ、以下のような結果がみられた。
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●むせのある人・ない人の舌圧(kPa)
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●食べこぼしのある人・ない人の舌圧(kPa)
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●流涎のある人・ない人の舌圧(kPa)
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●異なる食事を摂っている人の舌圧差(kPa)
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●舌の運動範囲の違いによる舌圧差(kPa)
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●舌の運動速度の違いによる舌圧差(kPa)
- 舌の運動範囲における評価の高さと、むせ、食べこぼしの有無の間には相関関係がみられる。
- 通常食を食べている人は舌の運動範囲、運動速度が良好だが、調整食を食べている人は不良を示す場合が多い。
- 舌の運動範囲、および運動速度と、低栄養状態の相関関係は明らかではないが、低栄養になるリスクを持っている人の舌圧は17.8±8.5kPa、健常な場合は21.9±8.5kPaとなり、低栄養になるリスクがある人は、同時に舌圧も低い傾向がある。
このような情報から、
- 舌の運動範囲、運動速度が良好な人は舌圧が高値を示す
- 調整食を食べている、むせる、食べこぼしをする人は舌の運動機能が低下している
- 低栄養リスクのある人の舌圧は低い傾向にある
といったことが分かります。
これらのことから、舌圧の低い人は、食事の際にむせる、食べこぼしなどをして食べ物をうまく摂取できず、結果として体内に栄養を十分取り入れることができないため低栄養に陥っていると考えられます。
介護を要する高齢者の場合、舌の運動機能の良否がその人の栄養状態と関連していることが分かります。
栄養が十分摂取できないと、弱った筋肉が更に弱り、同時に舌の運動機能も落ちるため、ますます低栄養になることもあります。
低栄養を予防するためには、全身の筋力強化と同様に、舌に対するリハビリテーションが必要になります。
出典:
"施設入所高齢者にみられる低栄養と舌圧との関係",
児玉実穂, 菊谷 武, 吉田光由, 稲葉 繁, 老年歯科医学, 19(3): 161-168, 2004.