『摂食・嚥下』について
摂食・嚥下とは、食物を見る、匂いを嗅ぐといった動作を通して認知し、それを口腔に取り込み、咀嚼により食塊を形成し、嚥下して胃に移送する過程を指す。
摂食・嚥下の過程は、以下の5期に分けられる。
| 先行期 | 食べ物を見つけ口腔に入れる |
| 準備期 | 食べ物を咀嚼し食塊にする |
| 口腔期 | 食塊をまとめ飲み込む準備をする |
| 咽頭期 | 食塊を咽頭に送り込み嚥下する |
| 食道期 | 嚥下した食べ物を送る |
舌の動きに着目した摂食・嚥下の流れ
（1）先行期
食物を見つけ、見る、嗅ぐなど五感によって食べられるものであるかどうかを判断し、口に運んで口唇で取り込むまでの一連の動作を指す。
（2）準備期
食塊を形成するため、口腔に取り込んだ食物を咀嚼する時期を指す。
舌は受け渡された食物を口蓋に押し付け、素早くかたさや温度など、その食品の性状を調べる。
やわらかい食品であればそのまま舌と口蓋で押しつぶすが、少しでも固ければ臼歯部に送って咀嚼する。
大きな食物はまず前歯で咬断後、舌背に乗せ、臼歯部に移す。
ここで食物は舌と頬によって上下の歯の間に保持され、粉砕される。
食物を噛み砕くとき、舌と頬は協調して食物を臼歯の上にのせ、そこに保持しようとする。
また、舌は咀嚼時に食べ物を左右の臼歯に移す働きをする。
咀嚼してできた食塊は集められ、舌背に乗せられる。この過程を「食塊形成」という。
このとき舌尖は上顎切歯の口蓋側、また硬口蓋前方に押し付けられ、舌背は臼歯部と口蓋粘膜に向け側縁部を挙上させることで、スプーン状のくぼみを作る。
- 舌は先行期で口腔に入れた食物を口蓋に押し付け、食物の性質を調べる
- 固い食物の場合、舌は臼歯部に食物を移し、咀嚼させる
- 咀嚼時には、舌は頬筋と協調して食物を上下の歯の間に保持する
- 咀嚼時、舌は食物を左右の臼歯に移す動きをする
- 嚥下が始まる前に、咀嚼をしてできた食塊は、頬と舌の協調運動によって舌のスプーン状のくぼみに集められる
（3）口腔期
口腔期以後は、すべて反射的に行われる運動となる。
このとき、口唇は閉鎖し、上下の歯は接近する。
舌の前３分の２は上顎前歯の付け根と硬口蓋前方部に向けて上昇する。
このとき、舌後方部は後ろに向け軟口蓋と接触するまで弓なりに持ち上がり、食塊は咽頭に押し込まれる。
一方、舌根部は下前方に移動し、下咽頭部は開いて、食塊を咽頭へ流すための傾斜した通路を作る。
また、舌と下咽頭部の空間をつくるような動きは、この部位の圧を下げる効果を持ち、食塊を引き込む結果をもたらす。
軟口蓋は咽頭後壁と接触し、鼻腔へ食塊が入らないよう遮断する。
- 舌の前3分の2は口蓋の前方部に密着してゆき、食塊を咽頭に押し込む。
- 舌が食塊を咽頭に押し込むと同時に、舌根部が動き下咽頭部を開いて、食塊を咽頭に受け入れる通路を作る
（4）咽頭期
嚥下反射による動きで通常0.5 秒以内で起きるごく素早い動作により、食塊を咽頭を通過させる時期を指す。
咽頭期には、様々な筋の動きが同時に起こり、食塊を気道に誤って受け入れることなく、食道に押し込む一連の動作を形成している。
- 軟口蓋が後方へ動き、鼻咽腔を閉鎖する。
- 舌骨挙上筋群の収縮により舌骨が前上方に動く。
- 舌骨の動きに引かれて甲状軟骨と輪状軟骨も前上方へ動く。
- 喉頭蓋が反転して気管への通路が喉頭を閉鎖する。
- 輪状咽頭筋が弛緩するため食道入口部が開く。
- 舌根部が後下方へ動き、咽頭後壁に押し付けられることにより、食塊を咽頭から食道へ押し出す力が生じる。この際、舌は口蓋に押し付けられ舌根の動きの支点となる。
- 同時に咽頭収縮筋が上から下に絞り出すように収縮する。
- 口腔期から引き続き、舌根部が咽頭後壁に押し付けられる動きによって、食塊を咽頭から食道へ押し込む。舌は口蓋に押し付けられ、舌根の動きの支点となる。
（5）食道期
食塊が上食道括約筋を通過すると、筋が反射的に弛緩し、食塊は毎秒４センチの速度で胃に運ばれる。
参考文献：
「摂食・嚥下障害の評価法と食事指導」ISBN4-263-44127-3（医歯薬出版株式会社）
「ナースのための摂食・嚥下障害ガイドブック」ISBN978-4-8058-2624-9（中央法規出版株式会社）
